研究成果
低分子医薬品の標的可能範囲を広げる化学反応を開発
創薬ケミカルバイオロジー分野 Journal of the American Chemical Societyアクセス数:481
標的タンパク質と化学反応して共有結合を形成するコバレントドラッグ (共有結合性医薬) は、がん治療の分子標的薬として大きな注目を集めており、薬剤耐性の克服や標的困難なタンパク質の阻害といった有用性が示されています。従来のコバレントドラッグでは、標的タンパク質との共有結合形成を担う求電子性の「反応基」として、システイン残基と効率的に反応するアクリルアミド基がよく用いられて来ました。一方で近年、ユニークな性質を持つ反応基の開発に基づく、標的可能タンパク質の拡大が盛んに試みられています。
今回、九州大学大学院薬学研究院の渡邉俊佑 学術研究員、進藤直哉 講師、王子田彰夫 教授らを中心とする研究グループは、コバレントドラッグの有望な反応基としてβ-フルオロビニルスルホンアミド基(FVS)を開発しました。FVSは、反応基構造の多様化によって、コバレントドラッグに適した範囲内で反応性のファインチューニングが可能です。また、従来の反応基の多くがシステイン残基のみを標的とするのに対し、FVSはシステイン残基とリジン残基に対するデュアル反応性を示します。本研究では、構造ベース創薬とケミカルプロテオミクスを統合したアプローチにより、RSK2 (ribosomal protein S6 kinase) とBTK (Bruton’s tyrosine kinase) のシステイン残基を狙ったFVS型新規コバレントドラッグを創出したほか、PFKL (肝臓型phosphofructokinase-1) のリジン残基と共有結合する、前例のないコバレント活性化剤を見出すことに成功しました。
本手法は今後、コバレントドラッグで標的可能なタンパク質のさらなる拡大に貢献することが期待されます。
本研究は九州大学大学院薬学研究院の田畑香織 助教、加藤百合 講師、西田基宏 教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の三城恵美 講師との共同研究であり、戦略的創造研究推進事業(CREST)の助成のもとに⾏われた研究です。
本研究成果は、⽶国化学会の学術誌「Journal of the American Chemical Society」誌オンライン版に2025年10月2日(木)に掲載されました。
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掲載誌 タイトル 著者 創薬ケミカルバイオロジー分野HP |
