研究院長から
薬学研究院長小柳 悟
九州大学薬学部は、1950年に医学部薬学科として創設され、1964年に製薬化学科が付加設置されて薬学部として独立しました。その後、1968年に大学院薬学研究科が誕生し、1999年から医療薬科学と創薬科学の2つの専攻に再編されました。さらに、2010年に創薬科学専攻の修士課程、2012年には創薬科学専攻と臨床薬学専攻の2つの博士課程が設置されて現在に至っています。また、学部には4年制創薬科学科と6年制の臨床薬学科を併置し、それぞれ創薬研究を志す研究者と育薬研究を志す高度薬剤師の養成を行っています。
九州大学の各部局では、教職員が所属する研究組織を「研究院」と呼び、学生が所属する教育組織は学部生であれば「学部」、大学院生であれば「学府」と呼称しています。薬学研究院は医薬品に関わる生命科学研究をリードする部局として、新しい薬創り(創薬)を志す研究者と医薬品の有効かつ安全な使い方(育薬)を構築できる薬剤師を育成する責務があります。大学院創薬科学専攻の修了者の多くは、大学の教員や公立機関などの研究者として世界を牽引する研究を展開し、また、製薬をはじめ関連企業の研究者としても第一線で活躍しています。一方、大学院臨床薬学科専攻の修了者は、博士号を有した研究者マインドを持つ薬剤師として期待され、大学病院における高度医療の提供や医療行政の重要な役割を担うなど幅広い分野で活躍しています。
2020年初頭から続いた新型コロナウイルス感染症の蔓延も収束に向かい、大学も元の状態に戻りつつあります。この数年間、私たちの生活は大きく制限され、人々の意識や社会の仕組みも変貌しました。そのような最中、RNAワクチンや抗ウイルス薬などの専門的用語が一般市民の間にまで浸透し、これまで以上にワクチン開発の社会的意義や創薬研究に対する重要性の意識が高まったことで、薬学が担う社会的責務を改めて認識されられました。我々は、このような社会からの要請に応えるために創薬研究・医療薬学研究を推し進めていかなければならないと考えています。薬学研究院では長年にわたり「システム創薬リサーチ構想」を推進し、創薬・育薬に関する研究単位を一体化して、基礎から臨床まで包括的な研究に取り組んできました。普遍的なメカニズムの解明が科学研究の基本ですが、我々の使命は、「普遍的なメカニズムを基盤に未来をより良い社会にすること」だと考えます。これまでの薬学研究院・薬学部の伝統を未来に繋ぎ、新たな知的価値の創出と創造力豊かな人材の育成によって、人類の健康と福祉に貢献していく所存です。