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研究成果

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研究成果

研究成果
染色体複製開始のレスキュー機構
分子生物薬学分野 eLife
2025.06.04

アクセス数:845

 染色体の複製開始には、複製起点DNAにおいて複数のタンパク質が高次で動的な複合体を形成することが必要です。細胞内での何らかの障害により、このような複合体形成プロセスが阻害された場合(複製開始ストレス)、対応してどのような反応が引き起こされるのか、よく理解されていません。


 これまで当分野では大腸菌の染色体DNA複製起点(oriC)で形成される高次複合体とその動的メカニズムを詳細に解明してきました。まず、複製起点oriCでは複製開始因子であるDnaAタンパク質が二つの複合体を形成します(図:「正常」)。これらのDnaA複合体は、DnaBへリカーゼと結合して複製起点に呼び込みます。またDNA屈曲因子との協働によってoriC DNAが一本鎖化(開裂)し、一本鎖DNAがそれぞれのDnaA複合体に結合します。このように一本鎖DNA領域が安定化し拡張すると、二分子のDnaBへリカーゼがDnaA複合体との動的な相互作用を介して、それぞれの一本鎖DNAに装着します。これらのDnaBへリカーゼは反対方向にDNA上を進行しながらDNAを一本鎖化してゆきます(図:「正常」)。これによりDNA合成酵素が呼び込まれ、DNA複製が起こります。


 このように明らかになってきた正常なプロセスにおける複製開始の原理機構を基盤にして、複製開始ストレスへの対応機構の謎に挑むことができるようになりました。そこで、まず、DnaA複合体の形成が部分的に阻害された場合の対応機構について解明を進めました(Sakiyama et al., J. Biol. Chem., 2022年)。ここではoriC DNAの一本鎖化が不安定になりDnaBへリカーゼの一本鎖DNA装着が阻害されますが、このような時、oriCに隣接するAT配列クラスターがDnaBへリカーゼ装着をレスキューすること、が明らかになりました。AT配列クラスターは熱運動により一本鎖化しやすい性質があります。


 今回は、DnaA複合体とDnaBへリカーゼとの相互作用が阻害された場合の対応機構を初めて解明しました。PriCタンパク質は、一本鎖DNAやDnaBへリカーゼと相互作用する機能が知られていました。新たに、私たちは上述のような複製開始ストレスに対応して、PriCタンパク質がoriC領域におけるDnaBへリカーゼの一本鎖DNA装着をレスキューすることを明らかにしました。ここでは、DnaBへリカーゼが、DnaA複合体との相互作用に依存しない機構によって、oriCの一本鎖DNA領域に装着されます(図)。このようなPriCによるバイパス機構は、DnaA複合体の形成が部分的に阻害された場合でもDnaBへリカーゼ装着をレスキューできました。


 このように大腸菌は、複製開始ストレスに対応する複数の応答機構(バイパス)をもっており、多様な障害を乗り越えて複製開始できる頑強性を築いていることが明らかになりました。これは細菌の増殖のホメオスタシス(恒常性・安定性)機構の理解を深めるものであるばかりでなく、真核細胞の増殖制御機構や、DNA複製を阻害する抗菌剤や抗がん剤の開発や機序の理解においても重要な基盤となるものです。

 なお本研究成果の論文公開にあたっては、コペンハーゲン大学Anders Løbner-Olesen博士による紹介記事が同時に掲載されました。ここではPriCによる複製開始レスキュー機構の原理が細菌界を超える普遍性をもつ可能性や細菌のウイルス耐性に寄与する可能性も指摘されています。

論文

Primosomal protein PriC rescues replication initiation stress by bypassing the DnaA-DnaB interaction step for DnaB helicase loading at oriC

Ryusei Yoshida, Kazuma Korogi#, Qinfei Wu#, Shogo Ozaki*, and Tsutomu Katayama*

eLife (2025) 13:RP103340.

オープンアクセス:https://doi.org/10.7554/eLife.103340.3

*Co-corresponding authors, #Equal contributors

(2025年5月29日)


関連論文

Helicase Loading: A back-up mechanism for replication

Godefroid Charbon, and Anders Løbner-Olesen

eLife (2025) 14:e107379.

オープンアクセス:https://doi.org/10.7554/eLife.107379

(2025年5月29日)


Concerted actions of DnaA complexes with DNA-unwinding sequenhttp://www.phar.kyushu-u.ac.jp/image_upload/1749002231_image.jpgces within and flanking replication origin oriC promote DnaB helicase loading

Yukari Sakiyama, Mariko Nagata, Ryusei Yoshida, Kazutoshi Kasho, Shogo Ozaki, and Tsutomu Katayama (2022)

The Journal of Biological Chemistry (2022) 298:102051.

オープンアクセス:https://doi.org/10.1016/j.jbc.2022.102051


Basic and aromatic residues in the C-terminal domain of PriC are involved in ssDNA and SSB binding.

Takahiro Aramaki, Yoshito Abe, Kaori Furutani, Tsutomu Katayama, and Tadashi Ueda.

The Journal of Biochemistry (2015) 157:529-537

https://doi.org/10.1093/jb/mvv014


分子生物薬学分野

https://bunsei.phar.kyushu-u.ac.jp


参照

研究成果「DNAを折りまげて一本鎖化:バクテリアの染色体複製開始の普遍的なメカニズムの解明」(2023年)

https://www.phar.kyushu-u.ac.jp/research/view.php?page=2&r_publ_year=&r_search=&cId=682


研究成果「複製開始複合体の分子機構」(2017年)

https://www.phar.kyushu-u.ac.jp/research/view.php?S_Publ_Year=2017&word=&page=1&B_Code=399


研究成果「複製開始複合体の精密構造」(2016年)

https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/63