研究成果 2024年
慢性腎臓病に起因する心不全を改善する治療薬候補を発見
薬物動態学分野 Translational Researchアクセス数:2198
慢性腎臓病に起因する心不全を改善する治療薬候補を発見
九州大学大学院薬学研究院の大戸茂弘教授、松永直哉教授、吉田優哉助教らの研究グループは、慢性腎臓病 (CKD)時に生じる心不全の原因分子の一つであるGPR68の機能を阻害する物質を8008種の薬用植物エキスライブラリから見つけ出し、この物質がCKD時の炎症および心不全を軽減することを明らかにしました。
CKDによる腎機能の低下は様々な合併症を引き起こしますが、特に発症頻度が高いのが心不全です。それにもかかわらず、CKD時の心不全増悪機構は十分に解明されていないことから治療法は十分に確立されておらず、末期CKD患者の死因1位は依然として心不全です。
そこで研究グループは、2021年に明らかにした心不全に関与する炎症促進分子GPR68の機能に着目し、この分子の機能を抑制する物質を探索しました。その結果、主に北海道に自生するハイイヌガヤと呼ばれる植物由来のエキス、およびこのエキスに含有される分子であるホモハリントニンにGPR68の機能を抑制する効果があることを発見しました。発見したエキスおよびホモハリントニンはGPR68を介して生じる炎症を抑制する効果を有しており、その効果はヒトCKD患者から採取した血液を用いた実験でも確認されました。さらに、CKDマウスを用いた実験により、同成分がCKDによる心臓の収縮不全・拡張不全を改善することで、マウスの死亡率を低下させることを明らかにしました。ホモハリントニンは海外では白血病治療薬として利用されている医薬品であるため、適応拡大によりCKD治療に大きく貢献する可能性が期待されます。
本研究成果は、2024年2月に国際科学雑誌「Translational
Research」にオンライン版が掲載され、また、2024年8月に刊行される同雑誌紙面にも掲載される予定です。
論文タイトル
Inhibition of G protein-coupled receptor 68
using homoharringtonine attenuates chronic kidney disease-associated cardiac
impairment
著者
Yuya Yoshida*, Kohei Fukuoka*, Miyu
Sakugawa*, Masayuki Kurogi, Kengo Hamamura, Keika Hamasaki, Fumiaki Tsurusaki,
Kurumi Sotono, Takumi Nishi, Taiki Fukuda, Taisei Kumamoto, Kosuke Oyama,
Takashi Ogino, Akito Tsuruta, Kouta Mayanagi, Tomohiro Yamashita, Hiroyuki
Fuchino, Nobuo Kawahara, Kayo Yoshimatsu, Hitomi Kawakami, Satoru Koyanagi,
Naoya Matsunaga**, and Shigehiro Ohdo**
(*Equal contributors, **Corresponding
author)
掲載誌
Translational Research
https://www.translationalres.com/article/S1931-5244(24)00032-X/fulltext
DOI: 10.1016/j.trsl.2024.02.004.
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https://www.phar.kyushu-u.ac.jp/topics/view.php?S_Publ_Year=&word=&page=7&B_Code=536
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/606
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