研究成果 2021年
複製開始タンパク質DnaAの適時的な活性化を支える制御メカニズムを解明
分子生物薬学分野 Nucleic Acids Researchアクセス数:3474
複製開始タンパク質DnaAの適時的な活性化を支える制御メカニズムを解明
大腸菌の複製開始タンパク質DnaAはATP結合型となって、複製起点で高次複合体を形成します。その複合体は、複製起点DNAの構造変化をもたらして、複製開始反応を進めます。複製開始後には、ATP-DnaA(ATP結合型DnaA)が、DNA複製と共役する制御システムにより、不活性なADP-DnaAに変換し、これが細胞内に蓄積されてゆきます(片山ら, Cell誌 [1998年]他)。そして、次の細胞周期での複製開始のためADP-DnaAは、適時的にATP-DnaAに再変換されます。つまり複製開始前にDnaAに結合したADPとATPの交換反応が進められます。この反応を主に進めるのはDARS2と呼ばれる染色体上のDNA因子であり、そこで特異的なADP-DnaA複合体が形成され、ADPとATPの交換反応が進みます。しかしながらこの交換反応を適時的に起こすための制御メカニズムは未解明でした。
本研究で九州大学薬学研究院分子生物薬学分野の片山 勉教授・尾崎省吾准教授らのグループは、DARS2の機能が、合理的な負のフィードバック機構により制御されていることを解明しました。つまり、DARS2の機能は、ATP-DnaAによって抑制され、ADP-DnaAが蓄積することによって活性化するのです。DARS2の活性化には、転写制御因子でもあるFisタンパク質の結合が必要ですが、本研究で、ATP-DnaAはFisタンパク質の結合部位において3−4分子が複合体形成し、Fisタンパク質の結合を阻害することがわかりました。しかしADP-DnaAが一定のレベルまで蓄積した場合は複合体形成が阻害され、同じ部位にFisタンパク質が結合できます。このようにDARS2を周期的に活性化するメカニズム、つまり、細胞周期で適時的にATP-DnaAレベルを上昇させる原理的メカニズムが解明されました。ゲノム配列からは同様なメカニズムが病原菌を含む多くの細菌種にも存在することが示唆されます。
本成果はNucleic Acids Research誌に2021年12月6日付けでオンライン発表されました。

Negative feedback for DARS2–Fis
complex by ATP–DnaA supports the cell cycle-coordinated regulation for
chromosome replication.
Kenya Miyoshi, Yuka Tatsumoto, Shogo Ozaki,
Tsutomu Katayama.
Nucleic Acids Research.
Published: 6 December 2021.
オープンアクセス:https://doi.org/10.1093/nar/gkab1171
参照
研究成果「複製開始複合体の分子機構」
https://www.phar.kyushu-u.ac.jp/research/view.php?S_Publ_Year=2017&word=&page=1&B_Code=399
研究成果「DARS2によるDnaA再活性化の分子機構」
https://www.phar.kyushu-u.ac.jp/research/view.php?S_Publ_Year=2019&word=&page=1&B_Code=474
分子生物薬学分野 https://bunsei.phar.kyushu-u.ac.jp