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センター長から

九州大学システム創薬リサーチセンター「グリーンファルマ研究所」は、2015年2月に竣工し、本年で設立10周年を迎えました。本研究所は、創薬科学と臨床薬学の融合研究を推進するとともに、産学官連携や国際共同研究を深化させ、その成果を広く社会に還元することを目的に設立されました。薬学研究院の附属組織として2014年1月に設置された「産学官連携創薬育薬センター」の活動を発展させる形で建設され、以来、多くの研究者・学生がここを拠点に新しい創薬研究に挑んできました。
薬学研究院ではこれまで、「九大痛み研究拠点」を中心に、既承認薬を新たな適応へと迅速かつ安全に展開する育薬研究(エコファーマ)を進めてきました。エコファーマは、疾患の発症機序を解明し、見いだされた標的分子に対して数万種類に及ぶ既存薬をスクリーニングする手法であり、治療法のない疾患に対する新しいアプローチとして高く評価されています。
さらに、環境負荷の少ない薬の合成を可能にする「グリーンケミストリー」を組み合わせた「グリーンファルマ」は、九州大学ならではの研究領域として発展してきました。
研究所は設立当初、「グリーンケミストリー部門」と「エコファルマ部門」の2部門体制で発足しました。その後、両者の成果を統合・発展させる形で「グリーンファルマ部門」が新設され、現在では3部門が相互に連携しながら学際的な研究を推進しています。有機合成化学、構造解析、臨床薬学に精通した多様な人材が集い、独創的な融合研究が展開されています。近年では、医薬品のライフサイクルを延長し、新たな治療選択肢を生み出すドラッグ・リポジショニング研究にも力を注いでいます。
研究環境の整備にも注力してきました。既承認化合物ライブラリーを含む大規模ライブラリーの構築、ハイスループットスクリーニングを可能にする評価系、ヒット化合物からの誘導体合成を支えるフロー合成装置やペプチド自動合成装置など、一気通貫で創薬研究を進められる基盤を有しています。さらに、設立当初から文部科学省「創薬等支援技術基盤プラットフォーム(創薬PF)」事業に参画し、その後は「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)」へと継続され、現在も全国の研究者とともにオープンイノベーションの拠点として活動を展開しています。
令和4年には「グリーンファルマ構造解析センター」が設立され、クライオ電子顕微鏡を活用した最先端の構造・機能解析研究が開始されました。本研究所はこのセンターと緊密に連携し、分子の立体構造を基盤とした合理的な創薬研究を進めています。こうした体制は、基礎研究から臨床応用までを見据えたトランスレーショナル研究を強力に推進するものです。
現在、創薬研究を取り巻く環境は大きく変化しています。低分子医薬に加え、抗体、核酸、細胞・遺伝子治療など新しいモダリティが台頭し、創薬の対象はますます多様化しています。一方で、開発コストの増大、臨床試験の複雑化、創薬成功率の低下といった課題も深刻化しています。このような中で、既存薬の新規適応を探索するドラッグ・リポジショニングは、安全性や薬物動態情報がすでに確立している利点から注目されており、希少疾患や難治性疾患に対する有望な戦略とされています。グリーンファルマ研究所は、これらの課題に応える拠点として、学際的・国際的な共同研究をさらに発展させていきます。
また、本研究所は教育・人材育成の場としても重要な役割を果たしています。学生、大学院生、ポスドク、さらには女性研究者や若手研究者が実際の創薬・育薬研究に参画し、次世代を担う「くすりのプロ」として育つ環境を整備しています。これまで培った知識と技術を若い世代へ継承するとともに、社会に貢献できる人材を輩出することも、研究所の大切な使命です。
設立10周年を迎えた今、グリーンファルマ研究所は、がん、脳心血管疾患、感染症といった三大死因疾患をはじめとする重大な疾病の克服に向け、革新的な医薬品候補や診断マーカーの効率的な開発を進めています。今後も、学内外の研究者、企業、国際的な研究機関との協力を深め、環境調和型で持続可能な創薬研究の拠点として社会に貢献してまいります。
グリーンファルマ研究所の活動に、今後とも温かいご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
九州大学
システム創薬リサーチセンター
グリーンファルマ研究所
センター長 大嶋 孝志

