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長引く痒みに関係するアストロサイトの活性化メカニズムを発見
ライフイノベーション分野 Journal of Allergy and Clinical Immunology
2020.08.14

アクセス数:5625

 九州大学大学院薬学研究院ライフイノベーション分野の津田誠主幹教授,白鳥美穂助教らの研究グループは,慢性的な痒みの原因の一つであるSTAT3による脊髄アストロサイトの活性化に,皮膚炎に伴って末梢神経で作り出されるインターロイキン-6(IL-6)と,それによるアストロサイトでの細胞内カルシウムシグナルが大切であることを世界で初めて発見しました。
慢性的な痒みは,アトピー性皮膚炎をはじめ様々な病気で起こることが知られています。抗ヒスタミン薬などの既存薬ではかゆみを十分に抑えることが難しいため,一刻も早いメカニズムの解明とそれを基盤とした創薬開発が期待されています。
 以前に当研究グループは,炎症を起こした皮膚と末梢神経で繋がっている脊髄後角で,「アストロサイト」と呼ばれる細胞がSTAT3という分子の働きで長期にわたって活性化し,それによって作り出されたリポカリン2(LCN2)というタンパク質が痒み信号を強め,慢性的なかゆみに寄与することを明らかにしていました(2015年Nature Medicine誌,2020年JACI誌掲載論文)。しかし,アストロサイトがどのような仕組みで長期的に活性化しているのかは不明でした。
 今回の研究では,STAT3活性化因子として知られていたIL-6の発現が皮膚炎マウスの末梢神経で増加し,それが脊髄後角アストロサイトに作用して1型IP3受容体やTRPCチャネルを介する細胞内カルシウム上昇を起こし,長期的なSTAT3活性化を誘導することを突き止めました。さらに,末梢神経のIL-6,アストロサイトの1型IP3受容体やTRPCの発現あるいは活動を抑制することで,皮膚炎マウスで見られる脊髄後角アストロサイトの活性化,LCN2発現,そして引っ掻き行動が抑えられることも明らかにしました。この研究成果は,慢性的な痒みのメカニズム解明に大きく貢献し,将来的に慢性的な痒みを鎮めるための治療薬開発への応用が期待されます。
 本研究は,御子柴克彦教授(RIKEN,東邦大学,ShanghaiTech University),井上和秀理事・副学長(九州大学),西田基宏教授(九州大学薬学研究院,生理学研究所)と共同で実施し,その成果は国際学術誌 『J Allergy Clin Immunol』に掲載されました(2020年8月8日付)。



論文タイトル
Astrocytic STAT3 activation and chronic itch require IP3R1/TRPC-dependent Ca2+ signals in mice

著者
Shiratori-Hayashi M, Yamaguchi C, Eguchi K, Shiraishi Y, Kohno K, Mikoshiba K, Inoue K, Nishida M, Tsuda M

掲載誌
Journal of Allergy and Clinical Immunology  (IF: 10.228)

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