研究成果
DNAを折りまげて一本鎖化:バクテリアの染色体複製開始の普遍的なメカニズムの解明
分子生物薬学分野 Nucleic Acids Researchアクセス数:2168
DNAを折りまげて一本鎖化:バクテリアの染色体複製開始の普遍的なメカニズムの解明
多種多様なバクテリア種が知られていますが、ほとんど共通して、染色体の複製開始部位(oriC)には、DnaAタンパク質が特異的に結合する塩基配列(DnaA box)が数個、連なるように存在しDnaA boxクラスターを形成しています。DnaAタンパク質は、複製開始因子とも呼ばれ、oriCのDnaA boxクラスターに結合してDnaA複合体を形成します。複製開始の重要なミッションは、二重鎖DNAを局所的に一本鎖化することです。
過去、当分野は大腸菌を用い、初めてoriC上でのDnaA複合体の高次動態を詳細に解明しました。そして、DnaA高次複合体が、DNA屈曲因子であるIHFタンパク質と共同してはたらき、oriC DNAを局所的に一本鎖化するメカニズムを解明しました。IHFタンパク質は塩基配列特異的にDNAに結合して、鋭い屈曲(折れ曲がり)を起こします。
今回は、IHFタンパク質の代わりに、全てのバクテリア種に保存されているHUタンパク質がはたらく複製開始メカニズムの解明に成功しました。IHFタンパク質は、大腸菌など一部のバクテリア種にしかありません。大腸菌oriCの複製開始ではIHFタンパク質の代わりにHUタンパク質によっても代替できるのですが、そのメカニズムは長年の謎となっていました。HUタンパク質は、細胞内に多量に存在し、塩基配列に依存しないでDNAに結合するため「バクテリアのヒストン」とも呼ばれています。一方、HUタンパク質には屈曲したDNA部位に高い親和性をもつ性質もありますがその意義は不明でした。
ランダムなDNA結合能をもつHUタンパク質は、IHFタンパク質とは全く別のメカニズムで複製開始にはたらくという仮説も提案されていました。しかしながら、今回の研究で、oriC上でDnaA複合体が形成されると、HUタンパク質が部位特異的にDNA結合することが解明されました。つまり、まず不安定なDnaA複合体が形成され、局所的なDNA屈曲を引き起こし、この部位にHUタンパク質が特異的に結合したのです。これによりIHFタンパク質が結合した場合と同様な高次構造が安定に形成されDNAの一本鎖化が引き起こされました。今回の研究では、同様なメカニズムよって、進化的に始原細胞に近いとされる好熱性細菌のoriCでも一本鎖化が引き起こされることも示しました。
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論文 Single-stranded DNA recruitment
mechanism in replication origin unwinding by DnaA initiator protein and HU, an
evolutionary ubiquitous nucleoid protein Nucleic Acids Research (2023年5月13日 オンライン発表) オープンアクセス:doi.org/10.1093/nar/gkad389
分子生物薬学分野 https://bunsei.phar.kyushu-u.ac.jp
参照 研究成果「複製開始複合体の分子機構」(2017年) https://www.phar.kyushu-u.ac.jp/research/view.php?S_Publ_Year=2017&word=&page=1&B_Code=399
研究成果「複製開始複合体の精密構造」(2016年) |