研究成果 2024年
脂質の酸化を抑える薬の効率的な探索法を開発
〜加齢黄斑変性や血管性認知症などの治療法開発にも期待〜
分子病態解析学分野
アクセス数:1768
脂質の酸化を抑える薬の効率的な探索法を開発
ポイント
①
脂質の酸化は炎症や細胞死を引き起こし、様々な疾患に関わることが知られているが、これを強く抑制できる薬剤は不足しており、効率的な探索法が必要とされていました。
② 本研究では、独自の検出試薬を用いた脂質過酸化反応(※1)抑制薬の効率的な探索法を開発し、これを利用して脂質酸化を抑制する既承認薬を複数同定しました。
③ 同定した薬剤は加齢黄斑変性や血管性認知症(※2)の動物モデルに対しても有効性を示しており、今後、脂質酸化が関与する疾患に対する薬剤開発が促進されることが期待されます。
図1. 成果の概要 新たに開発した脂質ラジカル検出試薬(NBD-TEEPO)をリポソームの脂質過酸化反応に用いることで、高効率なスクリーニング系を構築しました。これをFDA既承認化合物ライブラリに適用した結果、メチルドパを始めとした多数の化合物が見出され、さらにメチルドパは網膜障害モデルや血管性認知症モデルに有効であることが示されました。 |
【今後の展開】
これまで、脂質過酸化反応抑制剤の効率的なスクリーニング方法は存在しませんでしたが、今回開発した手法を用いることで、迅速かつ定量的な抑制剤の探索が可能となり、今後、活性や有効性がより高い抑制剤の探索が可能となることが期待されます。さらに今回、加齢黄斑変性や血管性認知症に対して脂質過酸化反応の抑制が有効であることが示されました。今後、新たな治療戦略として研究開発が進むことが期待されます。
【用語解説】
(※1) 脂質過酸化反応
脂質ラジカルを介した一連の酸化的分解反応。不飽和結合を複数持つ多価不飽和脂肪酸は、二重結合に挟まれたメチレン基の水素が脱離しやすく、活性酸素種によって酸化されて脂質ラジカルとなる。脂質ラジカルは酸素と反応して過酸化脂質ラジカルとなったり、周囲の脂質を酸化して再び脂質ラジカルを生じさせ、連鎖反応を伝播させる。
(※2) 血管性認知症
脳梗塞や脳出血など脳血管の異常に付随して起きる認知症の総称。アルツハイマー病に次いで多い疾患である。現在、確立された治療方法は存在しない。
(※3) 活性酸素種
他の物質を酸化する力が非常に強い酸素。主にミトコンドリアの電子伝達系から発生するスーパーオキシドアニオンラジカルや、そこから代謝されて生じるヒドロキシルラジカルや過酸化水素、光励起によって生じる一重項酸素などが存在する。
(※4) 加齢黄斑変性
加齢に伴い網膜にある黄斑部が変性を起こす疾患。世界における失明原因の第3位で、2040年には約3億人が罹患すると推計されている。現状の治療薬はいずれも硝子体内への注射が必要なものばかりであり、侵襲性の低い治療方法の開発が望まれている。
【謝辞】
本研究は、日本医療研究開発機構
革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST; JP22gm0910013)、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業、JSPS科研費 (23H05481,
22H05572, 20H00493, 18K19405)、第一三共生命科学研究振興財団、小野医学研究財団(研究代表者:山田健一)の助成を受けたものです。
【論文情報】
掲載誌:Redox Biology
タイトル:Construction of a screening system for lipid-derived radical
inhibitors and validation of hit compounds to target retinal and
cerebrovascular diseases
著者名:Ryota Mori, Masami Abe, Yuma Saimoto, Saki Shinto, Sara Jodai,
Manami Tomomatsu, Kaho Tazoe, Minato Ishida, Masataka Enoki, Nao Kato, Tomohiro
Yamashita, Yuki Itabashi, Ikuo Nakanishi, Kei Ohkubo, Sachiko Kaidzu, Masaki
Tanito, Yuta Matsuoka, Kazushi Morimoto, Ken-ichi Yamada
DOI:10.1016/j.redox.2024.103186
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
九州大学 薬学研究院 主幹教授 山田健一(ヤマダケンイチ)
TEL:092-642-6624 FAX:092-642-6626
Mail:kenyamada★phar.kyushu-u.ac.jp
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