研究成果 2024年
新しく生まれた神経の回路への組み込みがトラウマ記憶の減弱に寄与する
―心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の新たな治療法開発に期待―
薬理学分野
Molecular Psychiatry
アクセス数:2678
新しく生まれた神経の回路への組み込みがトラウマ記憶の減弱に寄与する
―心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の新たな治療法開発に期待―
PTSDは、トラウマとなるような出来事を経験または目撃した人に発症する可能性のある精神疾患です。現状のPTSDの治療には、精神療法や抗うつ剤を使用した薬物療法が用いられています。しかし、治療の効果が現れない患者も存在するため、新たな治療法の確立が望まれています。
University of Toronto / Hospital for Sick ChildrenのPaul W. Frankland教授と、九州大学大学院薬学研究院 / Hospital
for Sick Childrenの藤川理沙子助教らの研究グループは、神経新生による海馬神経回路のリモデリングがトラウマ記憶の忘却を促し、PTSDに類似した症状を減弱させることを明らかにしました。ヒトを含む哺乳類の海馬の歯状回では、大人になっても日々新たな神経細胞が産出されていて、この現象を成体神経新生といいます。本研究では、マウスに強いショックを2回与えた後に自発運動で神経新生を増加させることで、トラウマ記憶とPTSD症状が減弱することを明らかにしました。次に、神経新生の効果であるか調べるため、遺伝学的手法を用いて新生神経だけにアプローチしました。新生神経の突起を伸長させ、神経回路への組み込みを促すことで、トラウマ記憶とPTSD症状が減弱しました。今回の成果により、海馬神経新生がトラウマ記憶を忘却させる新たなメカニズムが明らかになりました。
世界では戦争が起こり、日本でも地震などの自然災害が続いています。PTSDに苦しむ患者は後を絶ちません。運動や薬物など、神経新生を標的とした療法が新たなPTSD治療として活用されることで、より多くの患者の治療に役立つことが期待されます。
本研究成果は英国の雑誌「Molecular Psychiatry」に2024年5月8日(水)午後8時(日本時間)に掲載されました。
掲載誌:Molecular Psychiatry タイトル:Neurogenesis-dependent remodeling of hippocampal circuits reduces
PTSD-like behaviors in adult mice 著者名:Risako Fujikawa, Adam I Ramsaran, Axel Guskjolen, Juan de la Parra,
Yi Zou, Andrew J. Mocle, Sheena A. Josselyn and Paul W. Frankland 九州大学プレスリリース(https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1079) |