研究成果 2022年
長引くかゆみ,何回も引っ掻くと神経で増えるタンパク質が原因!
~かゆみ治療薬開発への応用に期待~
薬理学分野
Nature Communications
アクセス数:3202
長引くかゆみ,何回も引っ掻くと神経で増えるタンパク質が原因!
~かゆみ治療薬開発への応用に期待~
かゆみを感じたとき、私たちはかゆいところを引っ掻きます。通常であれば、数回引っ掻くとかゆみは治まりますが、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などに伴う慢性的な強いかゆみだと、何回も繰り返して引っ掻いてしまいます。それによって皮膚の炎症が悪化し、その結果、かゆみがさらに増すという悪循環となってしまいます。これは、「かゆみと掻破(そうは)の悪循環」と呼ばれ、かゆみを長引かせる大きな原因と考えられていますが、そのメカニズムはまだよく分かっていません。
九州大学大学院薬学研究院/高等研究院の津田誠主幹教授、薬学府の兼久賢章大学院生(当時)、岡山大学、ジョンズ・ホプキンス大学(米国)の研究グループは、何回も繰り返し皮膚を引っ掻く、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎モデルマウスで研究を行い、皮膚からのかゆみ信号を脳へ送る脊髄神経(かゆみ伝達神経)の活動が高まっていること、皮膚への引っ掻き刺激を抑えるとそれが起こらないことを見いだしました。さらに、皮膚を繰り返し引っ掻くことで、皮膚と脊髄をつなぐ感覚神経でNPTX2というタンパク質が増え、これが脊髄のかゆみ伝達神経に作用すると、その神経の活動が高まってしまうことを発見しました。実際に、NPTX2を無くしたマウスでは、脊髄のかゆみ信号伝達神経の活動が低下し、かゆみも軽減しました。この研究成果から、皮膚炎モデルマウスで見られる長引くかゆみには、かゆい皮膚を何回も引っ掻くことで作られる神経のタンパク質NPTX2と、それによるかゆみ信号伝達神経の活動の高まりが原因であることが明らかになり、慢性的なかゆみのメカニズムの解明と、かゆみを鎮める治療薬の開発に向けた大きな一歩となると考えられます。
本研究成果は、2022年5月2日(月)午後6時(日本時間)に国際科学誌「Nature Communications」のオンラインサイトに掲載されました。
【論文情報】
掲載誌:Nature Communications
タイトル: Neuronal pentraxin 2 is required for
facilitating excitatory synaptic inputs onto spinal neurons involved in
pruriceptive transmission in a model of chronic itch
著者名: Kensho Kanehisa, Keisuke Koga, Sho
Maejima, Yuto Shiraishi, Konatsu Asai, Miho Shiratori-Hayashi, Mei-Fang Xiao,
Hirotaka Sakamoto, Paul F. Worley, Makoto Tsuda
DOI: 10.1038/s41467-022-30089-x
九州大学【研究成果】HP
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/756
薬理学分野HP