研究成果 2013年
大腸菌の染色体DNA複製の新たな制御システムを解明
分子生物薬学 PNAS誌アクセス数:9517
九州大学大学院薬学研究院分子生物薬学分野(片山 勉教授)は、大腸菌染色体の複製開始因子DnaAタンパク質の新たな制御システムを解明しました。ATP結合型のDnaAタンパク質は複製開始を起こし、ADP結合型のDnaAタンパク質は複製開始を起こしません。染色体の過剰な複製を防止するためには、ATP型DnaAタンパク質の制御が必要です。今回、染色体上のdatAと呼ばれるDNA領域(蛋白質をコードしない特殊な領域)がDnaAタンパク質結合ATPの加水分解を進めることを解明しました。つまり、datA領域では、ATP型DnaAタンパク質が特異的な複合体を形成し、自己の潜在的なATP加水分解能を活性化します。その結果、ATP型DnaAタンパク質からADP型DnaAタンパク質が産生するのです。そこでこの制御システムをDDAH(datA-dependent DnaA-ATP hydrolysis)系と命名しました。
同分野では、これまでに染色体複製と共役して適時的にDnaAタンパク質を不活化する制御システムを解明し、RIDA (Regulatory Inactivation of DnaA)系と命名していました(1998年Cell誌等に論文発表)。RIDA系もDnaAタンパク質結合ATPの加水分解を進め、ADP結合型DnaAタンパク質を産生します。DDAH系は、RIDA系と独立に機能します。過剰な複製開始を完全に抑圧するためには、DDAH系とRIDA系の両方が不可欠です。DDAH系は、IHFタンパク質(ヒストン様因子)がdatA領域に結合することによって、複製開始後に活性化されます。
DDAH系と同様な制御システムは、枯草菌(納豆菌、乳酸菌の仲間)や放線菌(多くの抗菌剤や抗がん剤を産生する)にも存在することが、ゲノム解析を行った他の研究論文によって示唆されています。
この成果は、米国科学アカデミー紀要に2012年12月31日付でオンライン発表されました。
論文名
DnaA binding locus datA promotes DnaA-ATP hydrolysis to enable cell cycle-coordinated replication initiation
Proceedings of the National Academy of Sciences, USA
http://www.pnas.org/content/early/2012/12/28/1212070110.abstract分子生物薬学分野
http://bunsei.phar.kyushu-u.ac.jp/