研究成果 2011年
大腸菌染色体の複製開始のために2重鎖DNAを1本鎖化する反応の分子機構
分子生物薬学分野 Nucleic Acids Researchアクセス数:7167
九州大学大学院薬学研究院分子生物薬学分野の片山 勉教授と尾崎省吾助教は、大腸菌の染色体の複製開始点で形成されるDNA-蛋白質複合体の解析を進め、複製開始のキーとなる2重鎖DNAの1本鎖化反応のメカニズムを新たに解明しました。
複製開始点となるDNA領域(oriC)上では、DnaAと呼ばれる複製開始蛋白質が多量体を形成します。さらに、これに隣接した部位でIHFと呼ばれる蛋白質がDNAに結合します。DNA複製を開始するための2本鎖DNAの1本鎖化は、このような複合体が形成される領域で起こりますが、そのメカニズムは不明でした。本研究では、まず、DNAの1本鎖化反応に必要な複製開始点の最小領域を決定しました。その最小領域の解析から、熱エネルギーによる分子運動で1本鎖化されたDNAが、DnaA多量体に結合することにより安定化されることが、新たにわかりました。IHFはDNAを大きく屈曲させるため、このようなメカニズムを促進できます。このメカニズムをssDNA recruitmentと命名しました。ssDNA recruitmentは、1本鎖化したDNA上へのヘリカーゼの装着に必要でした。ヘリカーゼの装着は、DNAポリメラーゼなど複製に必要な蛋白質のDNA結合に必要ですので、ssDNA recruitmentが複製開始に必須のキーメカニズムと言えます。
さらに本研究では、始原細胞に進化的に近いとされる高度好熱菌における複製開始にもssDNA recruitmentメカニズムが重要ということを明らかにしました。よってこのメカニズムは真正細菌の染色体複製における共通原理であると考えられます。同様な原理は、ヒト等の高等生物の染色体複製でも保存されているかもしれません。
この研究成果は、国際的科学誌Nucleic Acids Researchに2011年11月3日付けオンライン版で発表されました。
(尾崎助教は、上原記念生命科学財団の支援により、本年10月よりスイス・バーゼル大学バイオセンターに留学しました)
論文名
Highly organized DnaA-oriC complexes recruit the single-stranded DNA for replication initiation
Shogo Ozaki and Tsutomu Katayama
Nucleic Acids Research (in press)
Nucleic Acids Research
http://nar.oxfordjournals.org/content/early/2011/11/03/nar.gkr832.full
分子生物薬学分野
http://bunsei.phar.kyushu-u.ac.jp/