ご挨拶

薬学研究院では長年にわたり「システム創薬リサーチ構想」(独自に進められてきた創薬・育薬に関する研究単位を束ね、基礎から臨床まで見渡せる研究環境の構築)を推進し、多くの人材を輩出し、薬の研究と生産、そして医療など広い分野で活躍している。また世界的な研究成果、大型プロジェクト採択など実績を積み上げてきた。

薬学研究院では、「九大痛み研究拠点」形成を中心に、既承認薬を新たな新薬候補として迅速かつ安全に適応拡大するための育薬研究(エコファーマ)を行ってきた。エコファーマと地球環境に優しい薬の合成(グリーンケミストリー)を融合させた「グリーンファルマ」は、「痛み研究拠点」を基盤にエコファーマを実践してきた経験と薬の省資源合成を可能にする多核金属クラスター触媒を用いた環境調和型直接変換反応技術を併せもつ九州大学薬学研究院でしかできない取組みである。こうした状況の中で、2012年設備概算要求および2013年最先端研究施設整備が採択され、「国立大学改革プラン」を踏まえた大学間・学部間の連携・再編成を促すなどの改革が国の施策として加速化される中で、全国に先駆けて2015年に新研究棟・薬学研究院附属「グリーンファルマ研究所」が竣工した。これを契機として、我が国唯一の九大薬ミッションの再定義「痛み研究、グリーンファルマ研究(環境調和型の育薬研究)など独創的な研究の推進」および「創薬・育薬に関する研究単位を束ねた分野横断型の教育研究体制を活かした創薬研究者の養成」が着実に進められ、一層の充実と次世代創薬研究者の養成を目指している。九大独自の大学改革活性化制度の下、2012-2014年度を第Ⅰ期と位置付けて「産学官連携創薬育薬共同研究推進による組織改革」、2015-2016年度を第Ⅱ期と位置付けて「国際的な痛み研究・グリーンファルマ研究推進による組織改革」、2018年度以降を第Ⅲ期と位置付けて「グリーンファルマ推進による医薬品導出加速化のための組織改革」を実施している。

医薬品開発は、国の新成長戦略の一つとして位置づけられており、大学や研究機関が持つ創薬シーズを有効利用し、企業との連携による新薬開発を促進することが求められている。2016-2020年度概算要求「グリーンファルマ推進による国際的アカデミア創薬拠点形成~痛み研究を基盤にしたグローバル創薬イノベーション~」が採択され、創薬シーズが豊富に用意されている。2010-2012年度文部科学省「化合物ライブラリーを活用した創薬等先端研究・教育基盤事業の整備」、2012-2016年度「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」、2017-2021年度日本医療研究開発機構「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」を実施している。本事業では、外部開放型産学官連携研究施設である九州大学薬学研究院附属システム創薬リサーチセンター「グリーンファルマ研究所」に設置した多検体スクリーニング設備および創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業で構築した体制をさらに進化させ、九州全域の各大学が保有する創薬シーズを見出すことを目的とする。九州大学では、特に製薬企業等では開発リスクが高すぎる、あるいは創薬ターゲットとするには早すぎる分子を研究対象とし、九州地域の他大学と協力してそれらの創薬シーズを探索することを目的とする。また、当大学および九州地域の他大学で創薬シーズを探索する若手教員・研究員・大学院生らを支援する研究組織体制をさらに強化し、次世代を担う若手研究者の育成に貢献する。

九大病院をはじめAROセンターなどとの連携の下、医薬品、診断薬、医療機器の開発など、基礎研究シーズを臨床のニーズにマッチした価値の創出を目指している。また九州全域、アジアを中心とした諸外国の大学研究機関と連携し、医薬品、診断薬、医療機器の迅速開発に特化した教育研究体制を構築している。さらに、新成長戦略「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」に焦点を当てており、中央教育審議会の「体系的・グローバル化社会型大学院教育の実現」に大きく貢献するものと思われる。

2017年4月1日
大戸 茂弘