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2018-02-25

弱酸性条件で進行するベンジリック位チオール化反応の開発に成功
〜生体共役反応の新たな選択肢〜

弱酸性条件で進行するベンジリック位チオール化反応の開発に成功
〜生体共役反応の新たな選択肢〜

 タンパク質などの生体由来の分子と合成分子を結びつける手法に生体共役反応があります。医薬の分野において幅広く用いられており、抗体と薬物の複合体や生命機能を解明するための分子を合成する上で欠かす事ができません。多くの場合、高い反応性を持つことから、タンパク質中に含まれるチオール基が生体共役反応の反応点としてよく用いられてきました。しかし、これまでに開発されてきた反応は適用可能な水素イオン濃度指数(pH)に制限があり、pHによってはチオール基の空気酸化、チオールの付加物からのチオール基の脱離が起こるなど問題点がありました。
 今回、九州大学大学院薬学研究院の大嶋孝志教授、渡邊賢司特任助教らはこれまで生体共役反応の反応点として用いられてこなかったベンジリック型水酸基に着目しました。ベンジリック型水酸基が適切に配置された反応剤(図)を用いる事で、チオール基の空気酸化が起こらない弱酸性条件の下で生体共役反応を開発することに成功しました。本反応剤は、中性やアルカリ性条件ではベンジリック型水酸基が活性化されないため、チオールやアミンと反応せず、弱酸性条件でチオールとのみ特異的に反応しました。反応によって生成したチオールの付加物は、他のチオール類が共存する条件でもチオール基の交換を起こさず、安定に存在しました。さらに、本反応が実際に様々なタンパク質のチオール基の修飾に適用可能であることを見出し、タンパク質への機能性分子の導入にも成功しました。今後は次世代の医薬品として注目される抗体-薬物複合体や生命現象を理解するためのツール分子の作製に本反応が用いられることが期待されます。



(図) 今回開発した、ベンジリック型水酸基を持つ反応剤と生体共役反応への応用

◇本反応剤の特徴◇

✔︎ 共生成物が水のみであり生体適合性が高い

✔︎ チオールの空気酸化及びアミン由来の副生成物を生じない

✔︎ アジド基を介して種々の機能性分子が導入可能


 以上の研究成果は、Wileyが出版する国際総合化学誌「Chemistry—A European Journal (IF 5.3)」に2018年2月19日付けオンライン版で発表されました。また、本論文は同誌のHot Paper及びFrontispieceに選ばれました。

論文名
Bioconjugation with Thiols by Benzylic Substitution

著者
Kenji Watanabe and Takashi Ohshima

発表誌
Chemistry—A European Journal 2018, 24, Early View
(DOI: 10.1002/chem.201706149)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.201706149/full

九州大学プレスリリース
http://www.kyushu-u.ac.jp/f/32523/18_02_22_2.pdf

環境調和創薬化学分野HP
http://green.phar.kyushu-u.ac.jp

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