トップニュース

2019-01-17

抗がん剤の機能を高める新しいドラッグデザイン-化学反応で標的タンパク質を高選択的に機能阻害-

  九州大学薬学研究院の王子田彰夫教授、進藤直哉助教らの共同研究グループは、化学反応でタンパク質の機能を阻害する新しい分子デザインを見出し、これを応用して強い薬効と高い安全性を併せ持つ抗がん剤が開発できることを発見しました。
 低分子の薬剤は一般に、病気を引き起こす原因となるタンパク質の機能を阻害することでその効き目を発揮します。化学反応によってタンパク質と結びつき、その機能を不可逆的に阻害するコバレントドラッグ(共有結合阻害剤)は、開発例は少ないものの、強力で持続する薬効を示すことから、近年、抗がん剤開発において大きな注目を集めています。しかしその一方で、コバレントドラッグは、標的以外のタンパク質と非特異的に反応することで副作用を起こす可能性が懸念されてきました。
 本研究では、このような非特異反応による副作用のリスクを軽減できる新しいCFA反応基を見出し、これをコバレントドラッグ型の抗がん剤開発に応用しました。得られた抗がん剤は、既存のコバレントドラッグよりも高選択的に標的タンパク質と反応して、その機能を特異的に阻害し、マウスを用いた投与試験でも強い薬効と低い毒性を発揮しました。その他にも我々は、CFA反応基が広い濃度範囲にわたって標的タンパク質に対する反応特異性を維持できること、非特異反応が可逆的であることなど、従来の反応基とは異なる優れた特性を持つことを見出しました。


図 (上段左) CFA反応基を持つ薬分子は標的タンパク質のシステイン残基と特異的に化学反応し、その機能を不可逆的に阻害する。(上段右) 開発した抗がん剤が標的タンパク質であるEGFRに結合している様子。(中段) CFA反応基の構造。(下段) CFA反応基は標的以外のタンパク質と非特異的に反応しても、加水分解によりシステインを再生する。

 本研究により開発されたCFA反応基を用いるコバレントドラッグデザインは、今後、がんのみでなく様々な疾患を治療できる創薬へ応用することが期待されます。

 この研究成果は、英国の科学雑誌「Nature Chemical Biology」電子版に2019年1月14日付けで掲載されました。

本研究の詳細は、九州大学プレスリリース (http://www.kyushu-u.ac.jp/f/34871/19_01_15_1.pdf) でご覧ください。

論文名
Selective and reversible modification of kinase cysteines with chlorofluoroacetamides

著者
Naoya Shindo, Hirokazu Fuchida, Mami Sato, Kosuke Watari, Tomohiro Shibata, Keiko Kuwata, Chizuru Miura, Kei Okamoto, Yuji Hatsuyama, Keisuke Tokunag1, Seiichi Sakamoto, Satoshi Morimoto, Yoshito Abe, Mitsunori Shiroishi, Jose M. M. Caaveiro, Tadashi Ueda, Tomonori Tamura, Naoya Matsunaga, Takaharu Nakao, Satoru Koyanagi, Shigehiro Ohdo, Yasuchika Yamaguchi, Itaru Hamachi, Mayumi Ono, Akio Ojida* (*Corresponding Author)

雑誌名
Nature Chemical Biology

DOI: 10.1038/s41589-018-0204-3

ページトップ